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Home/ Essay/ Words/ 丹色の波の音

丹色の波の音

the sound of red waves

明けましておめでとうございます。
記事の本題に入る前に、まずは新年のご挨拶を。

昨年は、まだまだ少ない記事数ながらも様々な方々に、このウェブサイトを訪れて頂いたこと深く感謝しております。
新年のご挨拶と兼ねまして、この場を借りて皆さまに心より感謝を申し上げます。
ありがとうございます。

それでは本題に戻りまして、今回は、ある土地の名前についてのお話をさせて頂きます。
その土地とは「丹波」という土地について。
現在は、兵庫県中部と京都府中部から北部にかけてのいくつかの市町をまたがる地域の総称として呼ばれる「丹波」という名前。

関西地方に住む方々にとっては、馴染みのある名前かもしれませんが、それ以外の地域の方々にとっては馴染みの薄い場所かもしれません。
私にとっては、普段何気なく目にしていた地域の名前でしたが、その言葉の意味を深く辿ることはありませんでした。

そんな「丹波」の地に、昨年の末にかけて幾度か訪れる機会がありました。
そして、その際に出会ったある神社の歴史を調べてゆく中で、思いがけなく「丹波」という地域の名の由来を辿ってゆくことになりました。

現在では「丹波」と呼ばれている地域は、かつては「丹波国」という名前を持つ、ひとつの国として栄えていました。
その歴史は古く、2000年以上も昔から中国大陸と往来があり、独特の文化を育んでいました。

奈良の都が移されたのが今から1300年程前の西暦710年のこと。
そう考えてゆくと、はるか古の時代からこの地の歴史は紡がれていたことが分かります。

「丹波国」が栄えていた当時は、日本海側が文化の中心的な役割を果たしていた時代。
大陸から輸入された高度な技術、文化を持つ丹波国の力は非常に強く、古代日本の最初の統一国家とも言われ、強大な力を持っていた大和朝廷さえもその征服は困難だったと伝えられています。

そして、その「丹波国」の強靭な力を支えていたのが、人々の暮らしの礎となる、お米を生産する稲作でした。
周囲の山々から流れ出す豊かな水と流れ込んだ水を逃がしにくい粘土質の土壌から、良質のお米が多く育ったとも伝えられています。

またそうした豊かな土地を背景にし、そんな豊穣な大地を祀る信仰が育まれてゆきました。
伊勢神宮の内宮に祀られる最高神「天照大神」の食事を司どり、同神宮の外宮で祀られている食と産業の神「豊受大神(とようけおおみかみ)」の信仰は、この地から始まったと言われています。

そんな古の記憶をたぐりよせてゆくと、豊かな文化とそれを支える豊穣な大地によって育まれた往時の「丹波国」の姿が朧げに見えてくるような気がします。

美しい山々と田園風景。
収穫の秋には、太陽に照らされた稲穂が風になびきながら、黄金色に輝く。
そして、水田の間を縫うようにして走る畦道を、人々が収穫したばかりの稲穂を背負いながら歩いてゆく。
日暮れは近く、西日に染まる稜線を見上げながら、また一日は過ぎてゆく。

まさにそんな風景こそが、この「丹波」という名前の由来になったのです。
「丹波」という地名の由来には、いくつかの説があると言われています。
その一つに、かつてこの地を訪れた人々が目にした風景を由来とするものがあります。

当時のお米は、現代では古代米とも呼ばれる、赤褐色の実を持つ「赤米」が盛んに栽培されていました。
そのため収穫の季節になると、その「赤米」の稲穂は風になびきながら、降り注ぐ太陽の光を受け、まるで赤い波が打ち寄せては消えてゆくような、美しく幻想的な風景を紡ぎ出していたのです。

そうした風景を目にした人々が「まるで赤い波を見ているようだ」と称したことが由来となり、この地は「丹波」と名付けられたと言われています。

「丹(たん)」とは、今ではあまり使われなくなった赤色を表す古語です。
鮮やかな赤というよりも、少し土っぽい雰囲気を感じるような黄味がかった赤。
そして、その色は「丹色(にいろ)」と呼ばれます。

「丹波」というたった二つの言葉の中に、そんな古の人々の豊かな物語が流れていました。
思いがけず辿り着いた「丹波」という地名の由来に、日本語の奥深さ、言葉の奥深さ、そして土地の名前に宿る豊かな世界に改めて気付かされました。

古来から日本人は、言霊を信じ大切にしてきた民族であるとも言われています。
だからこそ日本の地に残る何気ない地名に耳を澄ましてゆくことで、新たな世界が広がってゆくのだと感じさせられました。
お読み頂いた皆様の身近な地名の中にも、きっと素晴らしい物語が隠されているのではないでしょうか。

本年は、より多くの場所に出向き、ひとつでも多くの物語を皆様のもとに届けてゆきたいと考えております。
訪れた先のそれぞれの土地の名に想いを馳せ、古の記憶の中で今も風になびく、丹色の波の音に耳を澄ますように、物語を紡いでゆきたいと思います。
それでは本年もどうぞよろしくお願い致します。

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