ウジェーヌ・アジェと
パリの記憶
パリの記憶
Paris
Paris

Paris
1920年のある日。
一通の手紙がフランスの文部省美術局に届く。
「拝啓 私は20年以上の間、私個人の考えから、パリのすべての古い通りの写真を撮り続けてまいりました。これらの芸術的で参考資料となる膨大なコレクションは、すでに完成しています。私は、すべての “古きパリ” を所有しているといえます。
70歳という高齢に近くになり、私には相続人も後継者もいませんので、これらの写真がその価値の分からぬ者の手に渡り、誰にも利用されることなく、最後には紛失しかねないこのコレクションの将来を思うと心配ですし、苦しくもあります。」
淡々とだが、どこか切実な想いが込められたその手紙は、ある1人の写真家から送られて来た。
その写真家の名前は、ウジェーヌ・アジェ。
失われつつある、古きパリの街並みを30年にわたり撮影した写真家だ。
後にその功績が認められ、近代写真の先駆者とまで称されるのだが、生前に大きな評価を受けることはなかった。
一体なぜ彼は、パリの街をただ一人撮り続けたのだろうか。
その疑問を紐解いてゆくと、そこには一人の写真家が歩んだ、数奇な人生の物語が流れていた。
アジェの眼差しの先にある、古きパリの記憶を辿りながら、一人の写真家の歩んだ物語を辿ってゆきたい。
- text HAS
ウジェーヌ・アジェ
1857年、フランスのボルドーの静かな町リブルヌ出身の写真家。
幼い頃に両親を亡くし、その後幾度かの人生の転機を経て、34歳からフランス・パリにて写真家として活動を始める。その後、1927年に70歳で亡くなるまでの人生を通して、時代の移り変わりの中で消えつつある古いパリの街並みを撮影し、8000枚にも及ぶ写真を残した。
生前に大きな評価を得ることはなかったが、死後、様々な人々の尽力によって再評価を受け、現在では「近代写真の父」とまで称される写真家となる。
Paris
- text HAS
Reference :
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「アジェのパリ」
- 著者:
- 大島洋
- 出版:
- みすず書房
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「ウジェーヌ・アジェ回顧」
- 企画・監修:
- 東京都写真美術館
- 出版:
- 淡交社
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「ウジェーヌ・アジェ写真集」
- 編著:
- ジョン・シャーカフスキー
- 翻訳:
- 原信田実
- 出版:
- 岩波書店
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「写真幻想」
- 著作:
- ピエール・マッコルラン
- 翻訳:
- 昼間賢
- 出版:
- 平凡社
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