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星降る夜空に In the starry night sky
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私たちが目指しているのは、小さな星々の瞬きを紡ぐように、雑誌というメディアを育んでゆくこと。
こだわりの一杯の珈琲を届けるように、自らの感覚を大切に深めながら、ひとつひとつの物語を丁寧に紡ぎ、皆様のもとへと届けてゆく。

そして、それぞれの物語が読者の心を灯し、お読み頂く方々が一人、また一人と少しずつ増えてゆく。
それはまるで澄み切った夜空に、星々がひとつずつ瞬いてゆくように。

そうして散りばめられた星々の光を集め、また新たな光を物語に宿し、皆様のもとへと届けてゆく。
そんな風景が広がってゆくことを、私たちは想い描いています。

この取り組みは、とても時間のかかる方法かもしれません。
しかしだからこそ、読者の皆様と共に歩みながら、様々な想いを物語に重ねてゆくことが出来ると考えています。
そして、その歩みこそが多くの人々の心に響く物語を生む力になると。

私たちが目指すメディアの在り方は、以下のブランドブックにてお読み頂けます。
是非そちらも併せてご覧頂けますと幸いです。

この風景を描く旅は、きっと長い旅路になります。
読者の皆様とこの旅を共に出来ることを願っています。
無数に広がる物語が描く、星降る夜空に出会う旅へ。
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Home/ Essay/ Words/ 孤独からの贈り物

孤独からの贈り物

Gifts from Solitude

皆さんは、孤独という言葉にどのようなイメージをもたれているでしょうか。
ある人は、誰とも繋がりのない寂しい境遇のことを。
またある人は、強い意志を持ち、一人で立つ人のことを思い浮かべるかもしれません。

そんな受け取る人によって異なる意味を持つ「孤独」という言葉。
ですが多くの場合、あまり良い意味では用いられない言葉かもしれません。
しかし、この言葉は、誰もがふとした人生の折に頭をかすめる言葉ではないでしょうか。

だからこそ、その時に孤独について何を感じるか、何を考えるかで、歩んでゆく道は少しづつ変わっていくのかもしれません。
今回は、そんな「孤独」という言葉について、あるひとつの手紙を紹介しながら考えてゆきたいと思います。

その手紙とは「若き詩人への手紙」という本の中に残されていた、ある一編の手紙です。
この本は、オーストリア出身の詩人リルケによって書かれた幾つかの手紙をまとめ紡がれた本。

彼は、ドイツ詩史上有数の詩人とも称され「考える人」の彫刻で有名なロダンのもとで秘書を務め、その対話の中で自らの芸術性を磨いた人物としても知られています。

そんな彼が紡いだ手紙には、自らの詩作や人生に悩む、ある一人の青年から受けた相談に対し、リルケが伝えた幾つかの助言が残されています。
今回ご紹介する、その中の一編の手紙は、当時パリで暮らしていたリルケから青年へと届けられた手紙です。

それは、1903年のある冬の日のこと。
その手紙は、数日前に届いた心のこもった青年からの手紙への感謝を書き出しに、彼の「自らの詩作の良し悪しが分からず、詩人として歩むべきかどうか悩んでおり、どうか批評をして欲しい」という悩みに答える形で展開されてゆきます。

その悩みに対し、リルケは、他人に作品の評価を決して委ねてはならないと優しく伝えます。
そして、その悩みを解決する、たったひとつの方法を彼に伝えるのです。
以下に、その手紙の一部を抜粋してご紹介します。



誰もあなたに助言したり助けたりすることはできません。
誰にもできないのです。
方法は、一つしかありません。

自らの中へ降りて行きなさい。
(中略)
それらの作品には、あなたの生まれ持った大切な財産、あなたの命の一部、あなたの命の声があるのがわかるのですから。
必然から生まれた芸術作品は良いものです。
作品の生まれた起源のあり方にこそ、その良し悪しがかかっているのです。

他にはありません。
だからこそ私にできるのは、自分の中へ入って自分の生命の源である深みを探るように、とお勧めすることだけです。

あなたが創造しなければならないのかという問いへの答えは、その源で見つかるでしょう。
(中略)
外に目を向けたり、答えを外から期待することほど、そうした成長を妨げるものはありません。

あなたの問いはおそらく、最も静かな時にあなたの最もうちなる感情だけが答えることができるのでしょう。

(1903年2月17日ライナー・マリア・リルケよりフランツ・クサーファー・カプスへの手紙・若き詩人への手紙 / 出版 : 未知谷より引用)

これがリルケが青年に伝えた、悩みを解決するたった一つの方法でした。
さらにこの他にも幾つかの話を交えながら、その方法の意味を手紙を通して青年に語りかけてゆきました。

そして、その手紙の最後では、自らを信頼し、悩みを打ち明けてくれた青年に対する深い感謝を語ります。
こうして誠実に答えることで、その信頼に対して少しでもふさわしい者であろうとしたのだと。
その結びに「心からの共感を込めて」という温かな言葉を添えて。

リルケは、その手紙の中で最後まで青年の作品の良し悪しについては、語りませんでした。
彼がその手紙の中で語り続けたことは、自らと向き合うことの大切さ、孤独を深めてゆくことの意味でした。
誰に答えを求めるのでもなく、一人考えを深め、内なる声に耳を澄ますこと。
そして、そこで導き出す答えこそが自らを導く光になると。

孤独とは、自らと深い対話を重ねる大切な機会であり、他でもない自分自身を大切にすることに繋がってゆくことをリルケの手紙は、私たちに教えてくれるような気がします。
孤独は、他の誰でもない自らの光に気付く、そんな大切な贈り物を私たちに届けてくれるのだと。

時に悲しい言葉とともに語られる孤独という言葉。
しかし、それはきっと孤独という言葉の本質を表すものではないのだと思います。
孤独とは、あなたにしかない大切なものを見つける、かけがえのない時間。

そんな孤独という言葉の持つ本当の意味を、心温かで、優しい一人の詩人が時を越え、私たちに教えてくれました。

Reference :

  • 「若き詩人への手紙」
    著者:
    ライナー・マリア・リルケ
    著者:
    フランツ・クサーファー・カプス
    編集:
    エーリッヒ・ウングラウプ
    翻訳:
    安家達也
    出版:
    未知谷
Category :
  • text / photo :
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