新たな旅のテーマとして先日ご案内した、様々な口承の物語を紐解いてゆく特集「時の雫を集めて」。
今回は、その特集に関連して、「物語を紡ぐ力とは何か」ということを皆様と共に考えてゆきたいと思います。
まずは、そのことを考えるきっかけとなった、ある人物の言葉をご紹介します。
「至る所で、我々の文明は、限界に突き当たっています。 人間は繰り返し、その限界から、自分自身のもとへ投げ返され、従来の方法では、一歩も進めていないことに気付くのです。 現代では、ポジティブなユートピアがほとんど見当たりません。 (中略) 新しいユートピアは、まだ現れていません。 ユートピアを欠いているということは、未来に投影するヴィジョンを持たない、ということです。 ユートピアなしでは、人は本来、生きてはいけないのです。」 (雑誌『第三の道』第3号「特集ミヒャエル・エンデ」人智学出版社)
この言葉は、ドイツの作家 ミヒャエル・エンデ(1929 – 1995年)によって語られました。
ご存知の方も多いと思いますが、ミヒャエル・エンデは、『モモ』、『はてしない物語』といった、世界中で今なお読み継がれる数々の児童文学作品を残した世界的な作家の一人です。
ここで語られる「ユートピア」とは、日本語で理想郷を意味する言葉。
理想とは、今ここにない豊かな世界を想像し、思い描くこと。
だからこそ、「ユートピア」を描くためには、新たな物語を紡ぐ力が必要です。
つまり、ここでエンデが語っている「ユートピア」とは、そのまま「物語」という言葉に置き換えられるのだと思います。
私たちが「物語」を紡ぐ力を失いつつあるからこそ、未来を導く「ユートピア」が現れないのだと。
しかし、ここで幾つかの疑問が浮かびます。
なぜ私たちは「物語」を紡ぐ力を失いつつあるのか。
もし、そうであるならば、どうすれば取り戻すことが出来るのかと。
その疑問を紐解く鍵は、「時間」という言葉の中に隠されているような気がします。
それは、合理的に計算し尽くされた「時間」ではなく、暮らしの中に流れる何でもない「時間」。
- HAS text / photo
Reference :
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「人はなぜ語るのか」
- 著者:
- 片岡 輝
- 編集:
- 子どもの文化研究所
- 出版:
- アイ企画
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「モモ」
- 著者:
- ミヒャエル・エンデ
- 翻訳:
- 大島かおり
- 出版社:
- 岩波少年文庫
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「人はかつて樹だった」
- 著者:
- 長田弘
- 出版社:
- みすず書房
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