奈良・春日野と
聖なる森の月夜
聖なる森の月夜
in Nara
in Nara
豊かな自然と伝統の香りに包まれた、古の都・奈良。
この都市には、遥か古の時代から大切に守り継がれて来た森がある。
その森の名は「春日山原始林」。
太古の自然を今に残す貴重な森として、世界遺産にも登録されている森だ。
奈良・春日大社の後方に佇む、御蓋山の中にあるこの森は、神が宿る聖なる森として1100年以上もの昔から特別な祭祀を除き、人々の入山が禁止されて来た。
そんな遥かなる時を宿す、聖なる森の記憶を辿ってゆくと、あるひとつの記憶に辿り着いた。
それは、かつて古の人々が紡いだ人と自然の共生の記憶。
その記憶は、様々な環境問題に直面する、今の地球に生きる全ての人々にとって指針になりうる大いなる記憶であったのだ。
そんな遥かなる時を宿す、古の森の記憶を辿ってゆく、「奈良・春日野と聖なる森の月夜」。
後編の題名は「無窮に繋がる生命」。
今回の物語では、古の人々が育んだ「森の思想」の根底に流れる、ある「自然観」を紐解いてゆきたい。
- text / photo HAS
of Life
of Life
母なる森への想い
日本列島の深い森の中で、一万年にも及ぶ長い時間をかけ育まれた、縄文文化。
それは、森と共に生き、森と共に暮らす、自然との共生の文化であった。
この文化は、かつての古代文明や現代社会の基礎を築いた西洋文明とは大きく異なり、常に自然の再生と調和を重んじていた。
そのため人々を魅了するような煌びやかな科学や技術は発展することはなかった。
それは、ともすると地味とも思える文化だった。
彼らは、文字や大きな都市といった分かりやすい高度な文明を持つことはなかったのだ。
そのため、現代の科学的な視点で彼らの文明を捉えると、一見未開で未発達な文明と見なされることもあった。
だが、常に自然の調和と再生を暮らしの基盤としていた彼らの文化は、自らが暮らす「母なる森」を決して破壊し尽くすことはなかった。
法によって規制されるのではなく、あくまで暮らしに根差した眼差しから自然を見つめ、自然と心を通わせながら、過度な自然からの搾取を戒めていた。
そのため過度な富の蓄積は起こらず、貧富の差も、階級の差もなく、全ての人が平等に自然の恵みを分かち合っていた。
- text / photo HAS
Reference :
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「日本という国―歴史と人間の再発見」
- 編集:
- 梅原猛
- 編集:
- 上田正昭
- 出版:
- 大和書房
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「森の日本文化 - 縄文から未来へ」
- 著者:
- 安田喜憲
- 出版:
- 新思索社
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「鎮守の森 - 社叢学への招待」
- 著者:
- 上田正昭
- 出版:
- 平凡社
-
「照葉樹林文化 - 日本文化の深層」
- 編集:
- 上山 春平
- 出版:
- 中央公論新社
-
「照葉樹林文化論の現代的展開」
- 著者/編集:
- 金子 務
- 著者/編集:
- 山口 裕文
-
「世界遺産 春日山原始林 -照葉樹林とシカをめぐる生態と文化-」
- 編集:
- 前迫ゆり
- 出版:
- ナカニシヤ出版
-
「鎮守の森の物語 - もうひとつの都市の緑」
- 著者:
- 上田 篤
-
「照葉樹林文化の成立と現在」
- 著者:
- 田畑 久夫
- 出版:
- 古今書院
-
「神道千年のいのり 春日大社の心」
- 著者:
- 花山院弘匡
- 出版:
- 春秋社
-
「宮司が語る御由緒三十話 - 春日大社のすべて」
- 著者:
- 花山院弘匡
- 出版:
- 中央公論新社
-
「長い旅の途上」
- 著者:
- 星野道夫
- 出版:
- 文藝春秋
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text / photo :HAS Magazineは、旅と出会いを重ねながら、それぞれの光に出会う、ライフストーリーマガジン。 世界中の美しい物語を届けてゆくことで、一人一人の旅路を灯してゆくことを目指し、始まりました。
