[ 風景 ]
人々の想いを映す
高知・鏡川
Kagami River
高知・鏡川
人々の想いを映す
幼き頃の真間川(ままがわ)、蕪村の愛した淀川、そして、浦戸湾にそそぐ鏡川だ...。
それは私の先祖や親戚が見た月と同じ月を今宵も写して流れている。
これは「ガラスの靴」や「海辺の光景」といった代表作で知られる高知出身の小説家・安岡章太郎の最後の長編小説「鏡川」の内容を紹介する文章の一節。
この小説のタイトルにもなった「鏡川」は、高知市内に今も滔々と流れる川。
一人の小説家が自らの想いを「鏡川」に託したように、この川は、古くから様々な人々の想いを映し出して来た。
鏡のような美しさを
鏡川の源流は、旧土佐山村の細薮山。
そこから鏡村を通り、高知県中央部を流れながら、浦戸湾(土佐湾)から太平洋へと注がれる。
「鏡川」は、街中を流れる川でありながらも水質は美しく、今もアユやハゼなどの数多くの水生生物が生息しているという。
かつては潮江川と呼ばれていたのだが、土佐藩の第五代藩主であった山内豊房が、「我が影を映すこと鏡の如し」とその美しさを讃えたことから「鏡川」と名付けられた。
この話は、「鏡川」の美しさは、古くから人々を惹きつけていたことを私たちに教えてくれる。
市民の想いを映しながら
鏡川は、かつて高知出身の坂本龍馬が幼い頃に泳いだ川としても知られている。
「雨に降られるのも川で泳ぐのもどうせ濡れるから一緒だ。」
と言ってのけ、雨の中にも関わらず「鏡川」で水泳の練習をしたという若き日の豪快な龍馬の面影を偲ぶ話も、有名な逸話のひとつ。
「鏡川」は、昔から高知市民にとっても身近な川であったのだ。
その姿は、今も昔も変わることがない。
夏になると「鏡川」の中流域では、川遊びや遊泳を楽しむ人で賑わい、8月には高花火大会も開催される。
さらに「平成の名水百選」にも選定されている「市民の川」であり、「鏡川」は高知市民の生活を支える水がめでもあるのだ。
そして、その「鏡川」は、他でもない高知市民によって守られて来た。
昭和44年に高知市民の自治と自律を指針に定められた、高知市民憲章では、「鏡川」を清潔なまちのシンボルとすることが掲げられているのだ。
古くから多くの人々に大切にされ、悠久の時を滔々と流れて来た川「鏡川」。
その美しい川の水面には、今も昔も様々な人々の想いが映し出されているのだ。
- text / photo HAS
Reference :
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「鏡川エコツアーガイドブック『もいちど散策・鏡川』」
- 企画・編集・発行:
- 高知市自然環境保全課
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