さざなみの記憶と滋賀の祈り
Shiga

Shiga
静かに打ち寄せては、消えてゆく波の音。
夕暮れには、穏やかな湖面がゆっくりと夕日に染まり、
その美しさを讃えるかのように、鳥たちが羽ばたきながら彼方へと消えてゆく。
ここ滋賀の地は、一面に広がる湖と周囲を取り囲む美しい山々によって、
古の時代から数々の物語が紡がれて来た。
そんなこの地に息づく様々な物語に耳を澄ましてゆくと、
ある途方もない祈りの言葉に辿り着いた。
それは、無数の人々の想いと悠久の自然によって、時を越え紡がれて来た、
決して古びることのない祈り。
そして、その祈りの中には、私たちが失いつつある大切な記憶が流れていた。
そんな祈りの言葉を紐解きながら、この地に宿る物語を紡いでゆきたい。
- text / photo HAS
of Prayer
of Prayer
Contents

受け継がれた意志
最澄がその生涯を懸け礎を築いた天台宗は、彼の意志を引き継ぐ様々な僧たちによって発展を遂げてゆく。のちに仏教の総合大学とも称される比叡山・延暦寺には、最澄が残した多様な人材を育てる学びの環境が用意されていたのだ。
事実、鎌倉時代には、今の私たちにも馴染みのある新しい仏教宗派の開祖となる数々の僧を生む。
浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、禅宗の道元、日蓮宗の日蓮などは、すべて比叡山で学びを深め、修行を重ねていたという事実は、まさにそのことを証明するものだろう。

そうした環境が生まれた背景には、最澄自身の仏教に対する学びの姿勢が隠されていた。
それは、何より経典を重んじ、様々な学識を深めてゆくという姿勢である。
天台宗が重んじていたのは、「四宗兼学(ししゅうけんがく)」という学び。
天台宗の中核を成す「法華経」だけではなく、「禅」「念仏」「密教」などあらゆる教えを学び、総合的に仏教への学びを深めてゆくことを何より大切にしていたのだ。
密教の伝授の際には、行を重んじる空海との決別の大きな理由ともなったのだが、
こと教育においては大きな意味を成したのであった。
その幅広い学びの環境が多様な考えを育み、様々な人材を育てていった。
良き人材こそが国宝である、そう語った最澄の想いと重なり合うように。

その中でも円仁(えんにん)・円珍(えんちん)という僧は、唐・長安まで密教を学ぶために、現地に留学し、最澄が生前成し得なかった密教の習得を果たす。
そして、安然という僧に至り、天台宗に密教の教えを取り入れた「天台密教」が大成するのである。
- text / photo HAS
Reference :
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「図説・滋賀県の歴史」
- 編集:
- 木村 至宏
- 出版:
- 河出書房新社
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「琵琶湖 - その呼称の由来」
- 著者:
- 木村 至宏
- 出版:
- サンライズ出版
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「京滋びわ湖山河物語」
- 著者:
- 沢 潔
- 出版:
- 文理閣
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「近江古代史への招待」
- 著者:
- 松浦 俊和
- 出版:
- 京都新聞出版センター
-
「人類哲学序説」
- 著者:
- 梅原 猛
- 出版:
- 岩波新書
-
「最澄 - 京都・宗祖の旅」
- 著者:
- 百瀬 明治
- 出版:
- 淡交社
-
「鎌倉仏教」
- 著者:
- 平岡 聡
- 出版:
- 角川選書
-
「滋賀県の百年」
- 著者:
- 傳田 功
- 出版:
- 山川出版社
-
「老子」
- 翻訳:
- 小川 環樹
- 出版:
- 中央公論新社
-
「人間の土地」
- 著者:
- サン=テグジュペリ
- 翻訳:
- 堀口 大學
- 出版:
- 新潮文庫
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text / photo :HASは、多様な美しい物語を通して「物語のある暮らしを提案する」ライフストーリーブランド。 ライフストーリーマガジン「HAS Magazine」、クリエイティブスタジオ「HAS Couture」を手掛ける。