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2023.1.6
[ 前編 ]

神戸・北野町と幾つもの
夢を追って

Dream with
Kitano
Dream with Kitano
前編
Dream with
Kitano

海と山に囲まれた港町・神戸。
街の背には、六甲の山々が並び立ち、港からは、穏やかな瀬戸内の海風が吹き込んでくる。


古くから港町として栄えたこの土地は、様々な国々から多様な文化や人々を受け入れ、多くの人々がこの地に夢を描いた。
そして、その歩みは、独自の文化を生み出し、神戸の街を国際都市として発展させてゆくことになる。

そんな神戸の街を訪ねてゆくと、あるひとつの町の姿に出会った。
それは、神戸の山手に位置する北野町。
街と海を見渡すように立つ風見鶏をシンボルに、幾つもの異人館とその間を縫うようにして伸びる坂道が独自の美しい景観を描く町だ。

そして、この町に流れる物語に耳を澄ましてゆくと、この場所には、世界でもここにしかない独自の多文化共生の暮らしが育まれていた。
それは、多様な文化や思想、人種が行き交う、今の時代を生きる私たちにとって、これからの未来を描いてゆくために、大切な手がかりとなる姿でもあった。

そんな北野町に根付く、独自の多文化共生の姿を辿ってゆくために、神戸、そして北野町に流れる多様な物語を紡いでゆきたい。

神戸・北野町
Kobe Kitano

北野町は、神戸の街の山手にある閑静な住宅地域。
神戸の開港と共に、この地に暮らし始めた外国人の旧宅が今なお街の中に点在し、様々な異人館とその間を縫うようにして伸びる坂道が独自の美しい風景を紡ぎ出している。
特に街と海を見渡すように立つ風見鶏をシンボルとしたエリアは、観光地としても名高く、毎年多くの観光客で賑わいを見せている。
路地を曲がり、小道をたどれば思いがけない風景との出会いがあり、異国の人々の暮らしの息づきと匂いを感じることが出来る、異国情緒漂うエリアである。

前編
もうひとつの風景
Another
Scenery
Another
Scenery

多様な文化が織り成す街

神戸・北野町に根付く、独自の多文化共生の文化。
その内容を紹介する前に、まずは現在の神戸の街について話してゆきたい。

神戸市を中心とする兵庫県内には、138ヶ国、約 11 万人(2021 年末時点)もの外国人が住んでいるという。
その人口の割合は日本でも上位に位置する。

東京や大阪といった大都市と比べ、海と山に囲まれ、決して大きくはない都市の規模を考えると、その数は群を抜いて多いと言えるのではないだろうか。
そして、その比較に上げた大都市と大きく異なるのは、街の中で多様な異国の風景を感じられること。

神戸の中心地、三宮駅から海側に歩いてゆくと、まるでヨーロッパの都市を思わすような建築物が立ち並ぶ、旧居留地がある。
その跡地には国内外の様々なファッションブランドが軒を連ね、さながらヨーロッパの都市を歩いているような感覚を覚える。

そこからさらに西へ歩くと、街の景色は一変し、極彩色で彩られた目にも鮮やかな中華街・南京町に行き着く。
そして、その南京町の西側の楼門から山手に向かって歩いてゆくと、坂道を縫うように様々な異人館が建ち並ぶ、北野町にたどり着く。

都市の端から端まで歩いてゆけるほどコンパクトな都市の中に、そうした多様な文化が織り成す風景が流れているのだ。

それだけでも充分、多文化共生の姿を表していると思われるかもしない。
だがそれは、決して神戸だけのものではない。
国内では、函館・新潟・長崎・横浜といった、江戸末期から明治にかけて、外国に開かれた港町でも異国情緒の漂う街並がある。

また外国を例にすると、かつてドイツの租借地であった中国の青島市(チンタオ)。スペインの植民地時代を経て、現在では南米のパリとも称されるアルゼンチンのブエノスアイレスなど、多様な文化が重なり合う街並みは、世界各地に点在している。

では、その神戸・北野町で育まれた独自の多文化共生とは一体何なのか。
その手掛かりは、その街並みの中に隠されていた。

もうひとつの風景

神戸の街と海を見渡せる高台に広がる北野町。
独自の美しい街並みを持つ北野町は、観光地としても名高く、毎年数多くの人々が訪れている。

この街にある幾つもの異人館とその間を縫うようにして走る坂道は、訪れる人に思いがけない風景との出会いを届けてくれる。
それはまるで映画のワンシーンのように絵になる風景。
そんなイメージがこの場所を訪れる多くの人々が抱く、北野町へのイメージではないだろうか。

だがしかし、この街には、そうした風景の他に、もうひとつの特別な風景があることは、実はあまり知られていない。

この北野町は、世界中の様々な宗教の教会や寺院が密集する地域でもあるのだ。
なんと歩いてわずか10分の圏内に10以上の宗教施設があるという。

街の中心に位置する北野天満神社で祀られる日本古来の宗教・神道をはじめとして、仏教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ジャイナ教、シク教寺院、ヒンドゥー教に至るまで。
それはまるで世界の宗教を縮図にしたかのように、多様な宗教が点在しているのだ。

このような小さな地域において、これほどまでに多様な宗教が共存してきたことは、世界的にも珍しい現象であるという。
日本においては、異なる宗教の共存について取り沙汰されることは少ない。

しかし、世界に目を向けると、宗教の違いから長期に渡る争いが起きることは、決して珍しいことではない。
その果てには、お互いの大義を掲げ、終わりの見えない戦争という、最も忌むべきことまで辿り着いてしまうこともある。

その事実を思うと、いかにこの場所が稀有であるかを感じさせられる。
だが、なぜそれほどまでに多様な宗教の共存は難しいのだろうか。

乗り越えられない壁

そうした宗教の多くは数千年以上の時の中で紡がれ、育まれたもの。
そのため、個人という枠組みを越え、それぞれが異なる壮大な物語を内に秘めている。

他人同士が個人の価値観をすり合わせ、歩み寄ることでさえ、決して簡単なことではない。
また日本という島国を見渡してみても、地域毎に異なる文化がある。
その違いに悩んだ経験がある方も少なくないのではないだろうか。

基本となる文化が共通している日本においても、そうなのである。
それが異なる考え方を持ち、ときに国も地域も異なる宗教の違いなのであれば、その隔たりの大きさ、それを乗り越え、共生することの難しさは、想像に難しくないだろう。

だが不思議なことに、ここ北野町においては、それほど多くの宗教が混在しながらも、決してそれぞれの宗教間で争いが起きることはなかったのだ。

さらにそれだけなく、この街では、そうした街並みを背景にして、世界でこの場所にしかない、ある特別な催しが開かれているのである。

共生の記憶を辿る旅へ

その特別な催しとは、1981年からこの町で毎年開催されている「北野国際まつり」。
北野天満神社を会場とし、世界平和を祈るという共通のテーマのもと、あらゆる宗教の人々が集い、自由に祈り、食べ、交流するお祭りである。

決して大きな規模ではないが、異なる宗教や考え方を持った人々が同じ場所に集り、お互いを尊重しながら、平和について対話をするという、まるで理想のような多文化共生を実現しているのである。

そんな北野町のもうひとつの風景から神戸という街を紐解いてゆくと、神戸という都市は、港町を背景にした「国際都市」であるとともに、世界的にも稀有な「多宗教共存都市」であるとも言えるのではないだろうか。
それは最も実現が難しい、本当の意味での「多文化共生」とも言えるかもしれない。

そして、そんな「多文化共生」の姿は、テクノロジーの発展により、あらゆる垣根が取り払われつつある、グローバルな時代を生きる私たちに、これからの未来を描く上での大切な手がかりを教えてくれるような気がするのだ。

環境問題や人口の増加による食糧の自給、終わりの見えない紛争、広がり続ける貧富の差など、私たちが地球規模で向き合わなければならない問題は、枚挙に暇がない。

そうした問題の解決には、異なる価値観の人々が手を取り合い、地球のあるべき姿について語り合ってゆく、そんな光景が当たり前のように広がってゆく必要があるのではないだろうか。

そんな風に考えを巡らせながら、この地に息づく多様な物語を辿り始めたことが今回の物語を紡いでゆくきっかけとなった。
そして、それぞれの物語を紐解き、神戸・北野町に息づく「多文化共生」のルーツを辿ってゆくと、この地で多くの人々が描いた幾つもの夢に辿り着いたのである。

この地で育まれた、独自の「多文化共生」の姿。
その姿を紐解いてゆくために、この地に流れる幾つもの夢を巡りながら、神戸・北野町に息づく、共生の記憶を辿る旅を始めてゆきたい。

( ■ 中編「開港と異文化との出会い」に続く )

Reference :

  • 「神戸学」
    監修:
    崎山 昌廣
    編集:
    神戸新聞総合出版センター
  • 「居留地の街から―近代神戸の歴史探究」
    編集:
    神戸外国人居留地研究会
    出版:
    神戸新聞総合印刷
  • 「神戸っ子のこうべ考」
    編集:
    甲南大学総合科目神戸っ子のこうべ考
    出版:
    神戸新聞総合出版センター
  • 「居留地の窓から : 世界・アジアの中の近代神戸」
    著者:
    神戸外国人居留地研究会
  • 「北野『雑居地』ものがたり」
    発行:
    こうべ北野町山本通伝統的建造物保存会
Category :
  • text / photo :
    HAS
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