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おそれ
高村光太郎
『智恵子抄』より

いけない、いけない
静かにしてゐる此の水に手を触れてはいけない
まして石を投げ込んではいけない
一滴の水の微顫ふるえも
無益な千万の波動をつひやすのだ
水の静けさを貴んで
静寂の価あたひを量らなければいけない

あなたは其のさきを私に話してはいけない
あなたの今言はうとしてゐる事は世の中の最大危険の一つだ
口から外へ出さなければいい
出せば則すなはち雷火である

あなたは女だ
男のやうだと言はれても矢張女だ
あの蒼黒い空に汗ばんでゐる円い月だ
世界を夢に導き、刹那を永遠に置きかへようとする月だ

それでいい、それでいい
その夢を現うつつにかへし
永遠を刹那にふり戻してはいけない
その上
この澄みきつた水の中へ
そんなあぶないものを投げ込んではいけない

私の心の静寂は血で買つた宝である
あなたには解りやうのない血を犠牲にした宝である
この静寂は私の生命いのちであり
この静寂は私の神である
しかも気むつかしい神である
夏の夜の食慾にさへも
尚ほ烈しい擾乱じようらんを惹き起すのである
あなたはその一点に手を触れようとするのか

いけない、いけない
あなたは静寂の価を量らなければいけない
さもなければ
非常な覚悟をしてかからなければいけない
その一個の石の起す波動は
あなたを襲つてあなたをその渦中に捲き込むかもしれない
百千倍の打撃をあなたに与へるかも知れない

あなたは女だ
これに堪へられるだけの力を作らなければならない
それが出来ようか
あなたは其のさきを私に話してはいけない
いけない、いけない

御覧なさい
煤烟ばいえんと油じみの停車場も
今は此の月と少し暑くるしい靄もやとの中に
何か偉大な美を包んでゐる宝蔵のやうに見えるではないか
あの青と赤とのシグナルの明りは
無言と送目との間に絶大な役目を果たし
はるかに月夜の情調に歌をあはせてゐる

私は今何かに囲まれてゐる
或る雰囲気に
或る不思議な調節を司つかさどる無形な力に
そして最も貴重な平衡を得てゐる
私の魂は永遠をおもひ
私の肉眼は万物に無限の価値を見る
しづかに、しづかに
私は今或る力に絶えず触れながら
言葉を忘れてゐる

いけない、いけない
静かにしてゐる此の水に手を触れてはいけない
まして石を投げ込んではいけない

Artist
高村光太郎
高村 光太郎(たかむら こうたろう / 1883 - 1956年)は、東京都台東区出身の詩人・歌人・彫刻家・画家。
東京美術学校(東京藝術大学)卒業後、彫刻修業のためアメリカとヨーロッパへ渡る。
パリでロダンに出会い大きな影響を受け、日本を代表する彫刻家であり画家となったが生前に残した『道程』『智恵子抄』などの詩集が広く知られ、日本文学の近現代を代表する詩人として位置づけられている。
Refference
智恵子抄

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  • 著者 高村光太郎

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  • 出版 青空文庫

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Pino
Otto A Totland
穏やかな春を想うピアノ
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穏やかな春を想うピアノ

短い日照時間によって、長い暗闇に包まれる北欧の冬。
この音楽は、そんな冬の闇に暖かな光を灯すように紡がれたピアノ曲です。

彼の初となるピアノソロ・アルバム「Pinô」に収録された、アルバム名と同じ名前の一曲。
この曲は、ノルウェー出身の音楽家 Otto A Totland オット・A・トットランドによって生み出されました。

まるで穏やかな春の日を想わせる、どこか優しく、柔らかな温もりに包まれたこの曲は、北欧の長い冬の先にある微かな春の光を私たちに感じさせてくれます。

Artist
Otto A Totland
1979年、ノルウェー・ポールスグルン出身の音楽家。
トラックメイキングから音楽制作を始め、その後ピアノでの作曲を行うようになる。
憂いを帯びた美しいサウンドスケープを描く「Deaf Center」のメンバーとしての音楽活動を経て、2014年に初のソロピアノ作品「Pino」を発表した。
ひとつひとつのピアノの音色を丁寧に紡ぐ、優しい音楽を紡いでいる。
Refference
Pino
  • ArtistOtto A Totland
  • AlbumOtto A Totland
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茶っぽく青い樫の梢から見える、高あく澄んだ青空をながめると、変なほど雲がない。
宮本 百合子
『秋風』より
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Artist
宮本 百合子
宮本 百合子(みやもと ゆりこ / 1899 - 1951年)は、東京・文京区出身の小作家・思想家。
若干18歳で『貧しき人々の群』で文壇に鮮烈にデビューし、天才少女と注目された。
女性の自立を追求した作品「伸子」を発表した後、1928年新しい発展をもとめてソ連、ヨーロッパで生活。
その後ソ連を訪れ日本共産党に入党。宮本顕治と結婚。再三検挙されながらも執筆活動を続けた。戦後は民主主義文学運動の出発を宣言。
日本の左翼文学・民主主義文学、さらには日本の近代女流文学を代表する作家の一人である。
Refference
秋風

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  • 著者 宮本百合子

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  • 出版 青空文庫

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詩は、光である、リズムである、感傷である。生命そのものである。
萩原 朔太郎
『散文詩・詩的散文』より
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Artist
萩原 朔太郎
萩原 朔太郎(はぎわら さくたろう / 1886 - 1942年)は、群馬県前橋市出身の詩人。
1917年第1詩集『月に吠える』を刊行し、詩壇における地位を確立。1925年上京し、東京に定住。
大正時代に近代詩の新しい地平を拓き「日本近代詩の父」と称される。
詩作のみならずアフォリズム、詩論、古典詩歌論、エッセイ、文明評論、小説など多方面で活躍し、詩人批評家の先駆者となった。
Refference
散文詩・詩的散文

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  • 著者 萩原 朔太郎

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  • 出版 青空文庫

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Vendredi
Tamas Wells
安息の地へと誘う優しい歌を
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安息の地へと誘う優しい歌を

吹き抜ける風、やわらかな木漏れ日、穏やかな川のせせらぎ。 美しい自然が訪れる人をそっと包み込むような場所。 この音楽には、まるでそんな安息の地へと誘うような優しい歌声が流れています。

「A Plea En Vendredi」というアルバムの中に収められた一曲。 この曲は、オーストラリア出身の学者であり、シンガーソングライターのタマズ・ウェルズによって紡がれました。

聴く人の心を優しく包み込むような彼の歌は、安らぎの地の穏やかな木漏れ日のように、あたたかな時間を私たちに届けてくれます。

Artist
Tamas Wells
オーストラリア出身のシンガー・ソングライター、タマズ・ウェルズ。
彼は、2006年から2012年の6年間をミャンマーで過ごし、現地のNGOでHIV/エイズ教育のヘルスワーカーやフィールドワーカーの仕事をしていた。
その後メルボルンに戻り、メルボルン大学でビルマ政治学の博士号を取得し、現在は学者として暮らしている。
そんな彼の奏でる歌声は、澄み切った優しさに包まれ、「天使の歌声」とも称される。
異色の経歴を持つシンガーソングライターである。
Refference
Vendredi
  • ArtistTamas Wells
  • AlbumTamas Wells
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Will I Know
Sea Oleena
透明な光をすくうように
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透明な光をすくうように

澄み切った水面に零れ落ちる光。
この曲は、そんな自然が描く束の間のひと時をすくい上げるように紡がれた楽曲です。

この曲は、カナダ・サスカチュワン州出身の女性アーティストCharlotte Oleena (シャルロット・オリーナ)によるソロ・ユニット、Sea Oleena (シー・オリーナ)によって紡がれました。

彼女が生まれたカナダ・サスカチュワン州は、広大な草原と十万を数える湖と川が流れ、果てしなく広がる青い空に包まれた雄大な自然が息づく土地。
まるで美しい自然のひと時を紡ぐような彼女の音楽は、そんな彼女の心の中に流れる心象風景を描いたものなのかもしれません。

Artist
Sea Oleena
カナダ・モントリオール在住の女性アーティスト、ヴォーカリスト/多楽器奏者のCharlotte Oleena (シャルロット・オリーナ)によるソロ・ユニットSea Oleena (シー・オリーナ)。

子供時代にピアノ教室に通うも馴染まず、独学で作曲を始める。その後、偶然実家の空き部屋のベッドの下に、古いアコースティックを見つけたことがきっかけとなり、最初のセルフアルバムを完成する。
Refference
Will I Know
  • ArtistSea Oleena
  • AlbumSea Oleena
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The Water is Wide
Pete Seeger
名もなき人々の物語が宿る歌
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名もなき人々の物語が宿る歌

アメリカ・ニューヨーク生まれの伝説的なフォークシンガー、ピート・シーガーが残したアルバム『Pete』に収められた一曲。

この『The Water is Wide(広い河の岸辺)』という曲は、作者不詳の民謡として知られ、その起源はスコットランドにあると伝えられています。

その後、イギリスからアメリカに移住した移民によってアメリカに伝えられ、フォーク・リヴァイヴァリストとしてウディ・ガスリーと共に数々の民謡を収集していた、ピート・シーガーの手によって現代のフォークソングとして新たな命を吹き込まれ、多くのアメリカ人に知られてゆくことになりました。

ピート・シーガーは生前、あくまで自分自身はフォークソングを歌うシンガーの一人であって、真のフォーク・シンガーは民衆であると語っていました。
彼が奏でるギターに合わせ、多くの人々が主役となり合唱するこの曲は、まさにそんな彼の哲学を表現している一曲とも言えるかもしれません。

多くの人々が共に歌うことで、はじめて顕れる音楽の美しさ。
この曲は、かつて当たり前のように暮らしの中に音楽があり、誰もが歌い手であった、そんな古の人々の暮らしを思い起こさせてくれる一曲です。
歌い継がれる民謡の中に確かに息づく、かつての人々の暮らしに想いを馳せながら、耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

Artist
Pete Seeger
1919年から2014年までアメリカを拠点に活動した、アメリカ・ニューヨーク生まれのフォークシンガー、ピート・シーガー(Pete Seeger)。
ハーバード大学中退後に本格的な音楽活動を始め、黒人差別への抗議や反戦などの政治的な抗議メッセージを込めたプロテスト・フォークの旗手として注目を集める。
またアメリカ各地に残された民謡を収集するためアメリカ全土を放浪するなど、フォーク・リヴァイヴァリストとしての一面を持つ。
アメリカの現代フォークを代表する伝説的なフォークシンガーとして語り継がれ、フォークの神様とも称される音楽家ボブ・ディランにも多大な影響を与えた。
Refference
The Water is Wide
  • ArtistPete Seeger
  • AlbumPete Seeger
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Haru Spring
Harold Budd
響き渡る水の音のように
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響き渡る水の音のように

滴り落ちる水が反響し、美しい水音となって響き渡る。
この音楽は、まるで日本庭園の中にある水琴窟が奏でる音色のように、捉えどころのない自由な響きを紡ぐピアノ曲です。

「In The Mist」という名のアルバムに収められた一曲。
この曲は、アメリカの作曲家であり、ピアニストのハロルド・バッドによって紡がれました。

ささやくように揺らぐピアノの音色が穏やかな静寂を暮らしの中に届けてくれます。

Artist
Harold Budd
ハロルド・バッド (1936年5月24日 - 2020年12月8日)は、アメリカ合衆国の作曲家であり、ピアニスト。
カリフォルニア大学ノースリッジ校で学士号を取得するもミニマリズムと前衛音楽に自らの限界を感じ、一時作曲活動を休止。
その後、ブライアン・イーノのプロデュースのもと、再デビュー・アルバムをリリース。
「作曲とは無駄なものを取り除いていくこと」という理念をもとに、ラディカル・シンプリシティをテーマに独自のアンビエント・ミュージックのスタイルを追究した。
Refference
Haru Spring
  • ArtistHarold Budd
  • AlbumHarold Budd
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或る風に寄せて
立原道造
『暁と夕の詩』より

おまへのことでいっぱいだった 西風よ
たるんだ唄のうたいやまない 雨の昼に
とざした窓のうすあかりに
さびしい思ひを噛みながら

おぼえてゐた おののきも 震えも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
あれはもう たたまれて 心にかかってゐる

おまへのうたった とほい調べだ――
誰がそれを引き出すのだろう 誰が
それを忘れるのだろう……そうして

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
そそがれて来る うすやみのなかに
おまへは 西風よ
みんななくしてしまった と

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Artist
立原道造
立原 道造(たちはら みちぞう / 1914 - 1939年 )は、東京都中央区出身の詩人であり、建築家としての足跡も残した。
若干13歳にして自選の歌集や詩集をまとめ、第一高等学校在学中から堀辰雄と室生犀星に師事。
その後、東京帝国大学工学部建築学科に入学。同学部の1学年下には、丹下健三が在籍していた。
建築の分野でも際立った才能を発揮し、在学中に辰野金吾賞を3回受賞するなど将来を嘱望された。
さらに、詩の分野でも『萱草に寄す』と『曉と夕の詩』を立て続けに出版し、第1回中原中也賞を受賞するも結核を患い24歳という若さで帰らぬ人となる。
Refference
暁と夕の詩

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  • 著者 立原道造

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  • 出版 青空文庫

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When We Fail
Grouper
朝靄に包まれるような美しさを
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朝靄に包まれるような美しさを

木々の隙間から微かに零れる光が朝靄を静かに染める夜明け。
この音楽は、そんな美しい朝のひと時をすくい上げるように紡がれた一曲です。

この曲は、アメリカ・ポートランド出身の女性アーティスト Grouperの5作目となるアルバム「Dragging a Dead Deer up a Hill」の中に収録されています。

淡い光に包まれる、儚く美しい朝のひと時のような時間を私たちに届けてくれます。

Artist
Grouper
アメリカ・ポートランド出身の女性アーティスト、Liz Harris リズ・ハリス のソロ・プロジェクト Grouper。
空間を満たすサウンドスケープとシンプルなピアノの音色を背景に、ささやくような歌声を重ね合わせ、幻想的な世界観を生み出している。
また音楽のみならず、自らのアルバムジャケットのアートワークも手掛けるなど、音楽とアートの垣根を越えた表現を行う。
Refference
When We Fail
  • ArtistGrouper
  • AlbumGrouper
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Hovedkulds
Jacob David
木漏れ日を紡ぐように
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木漏れ日を紡ぐように

ある穏やかな午後の日。 ふと見上げた木々の隙間からこぼれ落ちる木漏れ日。 この音楽は、そんな穏やかな木漏れ日をすくい上げるように紡がれたピアノ曲です。

この曲を紡いだのは、デンマーク出身のピアニスト・作曲家である、ヤコブ・デイビッド(Jacob David)。 あたたかな木漏れ日が安らぎのひと時を描くように、穏やかな時間を私たちの暮らしの中に届けてくれます。

Artist
Jacob David
デンマーク出身のピアニスト/作曲家、ヤコブ・デイビッド。
デンマークの首都であり、北欧最大の都市であるコペンハーゲンを拠点に活動を行う。
幼少期よりピアノに親しみ、ブルースからクラシックまで幅広い即興演奏を行いながら自身のスタイルを確立。
柔らかなピアノのタッチから紡がれる穏やかな音色が印象的な音楽家である。
Refference
Hovedkulds
  • ArtistJacob David
  • AlbumJacob David
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