神戸・北野と幾つもの夢を追って
Kitano
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古くから港町として栄えたこの土地は、様々な国々から多様な文化や人々を受け入れ、神戸の街を国際都市として発展させていった。
そんな神戸の街の記憶を辿ってゆくと、神戸の山手に位置する北野町に息づく独自の多文化共生の姿に出会った。
神戸・北野町に息付く、独自の文化を紐解きながら、神戸に流れる多様な物語を辿ってゆく「神戸・北野と幾つもの夢を追って」。
後編の題名は「ある異国人の夢」。
今回の物語では、開港と共に神戸の地で暮らし始めた異国人たちの想いを、ある一人の男の物語を辿りながら紐解いてゆきたい。
- photo / text HAS
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[ 序章 ]穏やかな海風に包まれて
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[ 前編 ]もうひとつの風景
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[ 中編 ]偶然の導き
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[ 後編 ]ある異国人の夢
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[ 最終編 ]手紙が紡いだ記憶
Foreigner
Foreigner
幸運な贈り物
異国人の素顔
江戸から明治への大きな時代の移り変わりの中で、他の港に遅れること9年を経て、開港した神戸港。
そんな時代背景が偶然に生み出した「雑居地」。
それは図らずも暮らしを舞台にした国際交流という、独自の文化をもたらした。
そこに住む日本人にとっては、驚きと同時に始まった「雑居地」という環境。
その一方で、時を同じくして「雑居地」に暮らし始めた異国人たちは、一体どんな想いを抱いていたのだろうか。
少し目線を変え、当時の神戸に暮らし始めた異国人たちの素顔を辿ってみたい。
もうひとつの幸運
開港の遅れが「雑居地」という環境を生むきっかけになっただけでなく、その遅れは、もうひとつの幸運をもたらした。
それは、この地に移り住む異国人たちの意識に、ある影響をもたらしたのだ。
長い鎖国から突如として外国への門戸を開くことになった日本。
その大きな変化は、それぞれの港に混乱をもたらした。
そのため開港したばかりの頃は、混乱に乗じてやってきた、金儲け目当ての悪徳商人たちとのトラブルが絶えなかったという。
しかし、年を重ねる中で、そうした商人は淘汰され、多くは神戸の開港までに日本を立ち去ることになる。
さらに9年もの歳月が日本にやって来た異国人たちにとって、日本文化への理解を深める時間となった。
そうした背景から、この地に移り住んだ異国人の多くは、日本に対する理解と好意的な想いを抱く人々だったのだ。
神戸の人々の見事な順応性もさることながら、この場所に移り住んだ異国人たちの日本への意識も、この地の「多文化共生」を育む大きな理由となったのだろう。
事実、多くの異国人たちが国籍や文化の垣根を越え、ひとえに神戸という街、時に日本という国を想い、それぞれの夢を描きながら様々なものを残していったのだ。
その多くは、今もなお様々な形で神戸の街の中で生き続けている。
そうして紡がれた幾つもの夢によって、神戸という街は多様な文化が響き合う、新たな景色を育んでゆくのである。
それは名を残した人だけでなく、名も無い多くの人々によって紡がれた夢。
そのすべての夢を言葉で紡いでゆくことは出来ないが、ある一人の男の物語を通して、当時の異国人たちが抱いていた神戸への想いをさらに深めてゆきたい。
一人の男の物語
遥か海を越え神戸へ
その男の名は、アレキサンダー・キャメロン・シム。
英国スコットランド出身の薬剤師であった。
彼は、1840年スコットランドのアバラーという内陸の静かな村に生まれる。
周囲を山々に囲まれた、美しい自然に包まれた穏やかな田舎の村であった。
1862年 22歳の時に、王立ロンドン病院に薬剤師として就職。
1866年には、英国を離れ、香港の海軍病院に勤務する。
そして、1970年 30歳になろうとする年に、遥か海の彼方の日本の地にやってくるのである。
数ヶ月の間、長崎の外国人居留地で過ごしたあと、開港したばかりの神戸に移り、かつて居留地にあった「レウェリン商会」で薬剤師として働き始めることになる。
それは長雨が続く、梅雨の時期。
神戸の開港から2年の月日が過ぎた、降り続く雨と青葉の香りが夏の始まりを知らせる、6月のある日のことであった。
様々な国を経て、日本の地に辿り着いたシムは、一人の薬剤師という職業人の枠組みを越え、多様な文化を神戸の地にもたらしてゆくことになるのである。
紡がれたスポーツ文化
シムは、1870年9月23日に、神戸レガッタ・アンド・アスレチッククラブ(KR&AC)という外国人会員によるスポーツクラブを設立する。
なんとその設立は、彼が神戸にやって来て僅か3カ月後のことだった。
クラブの設立をきっかけに、これまでの日本にはない様々なスポーツ競技が神戸で開催されるようになる。
レガッタというボート競技やラグビー、さらに日本で初めてのサッカーの試合を神戸で開催するなど、神戸に近代スポーツを根付かせる大きなきっかけを作り出したのだ。
- photo / text HAS
Reference :
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「神戸学」
- 監修:
- 崎山 昌廣
- 編集:
- 神戸新聞総合出版センター
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「居留地の街から―近代神戸の歴史探究」
- 編集:
- 神戸外国人居留地研究会
- 出版:
- 神戸新聞総合印刷
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「神戸っ子のこうべ考」
- 編集:
- 甲南大学総合科目神戸っ子のこうべ考
- 出版:
- 神戸新聞総合出版センター
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「居留地の窓から : 世界・アジアの中の近代神戸」
- 著者:
- 神戸外国人居留地研究会
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「北野『雑居地』ものがたり」
- 発行:
- こうべ北野町山本通伝統的建造物保存会
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photo / text :HAS Magazineは、旅と出会いを重ねながら、それぞれの光に出会う、ライフストーリーマガジン。 世界中の美しい物語を届けてゆくことで、一人一人の旅路を灯してゆくことを目指し、始まりました。About : www.has-mag.jp/about
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[ 序章 ]穏やかな海風に包まれて
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[ 前編 ]もうひとつの風景
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[ 中編 ]偶然の導き
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[ 後編 ]ある異国人の夢
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[ 最終編 ]手紙が紡いだ記憶