うつわや essence kyoto
本質を探す旅へ
本質を探す旅へ
essence kyoto
essence kyoto
「essence kyoto エッセンス・キョウト」は、京都・岡崎を流れる琵琶湖疏水を眺めるように静かに佇んでいる。
階段を登り、味わいのある木の扉を開くと、目の前に広がるのは、洗練された空間と選び抜かれた美しい道具、そして日本の繊細さが感じられる様々なお茶。
「essence=本質」と名付けられた、このお店を営むのは、ある二人の夫婦。
そんな二人の旅の物語を辿りながら、彼らのまなざしの先にある美しさの本質を紐解いてゆく「うつわや essence kyoto 本質を探す旅へ」。
後編となる今回の物語では、二人の出会いと繋がりゆく幾つもの出会いと記憶を辿りながら、二人が見つめる美の本質を紐解いてゆきたい。
- text / photo HAS / Hiroaki Watanabe
-
[ 序章 ]本質を探す旅へ
-
[ 前編 ]心を紐解く旅
-
[ 後編 ]重なり合う出会いと記憶
& Memories
& Memories
Contents
灯された夢
記憶の彼方
写真とチベット仏教の修行に区切りをつけ、新たに移住したタイ。
いつか東南アジアの工芸を扱うお店を開く夢を抱きながらも、まずはその時々に出来ることを形にすることから彼の暮らしは始まっていった。
ネパールにいた時は、ただひたすら目標に向かう日々。
だからこそ、タイでの暮らしは、あえて大枠の方向性だけを決め、あとは出会いに任せて人生を描くのも良いかもしれないと考えていた。
そして、タイで出会った現地の友人たちがデザイン関係の仕事に関わる人が多かったことから、彼らと一緒に幾つかのお店を始めることに。
しかし、いつまで経っても最初に思い描いてたような場所には辿り着けなかった。
30歳前半から始まったタイでの暮らし。
だが、40歳を越えた辺りから現状に焦りを感じるようになったという。
どこかで本当の自分の気持ちを置き去りにしてしまったような感覚があった。
寺院を出る時に先生に最後に掛けられた「よく修行して、立派な人間になってくださいね。」という言葉がふと脳裏に浮かんだ。
ネパールの修行時代は、遥か遠い記憶の彼方に感じられていた。
いよいよ、従業員も増え、もう後戻りは出来なくなりつつあった。
このままだと本当に大切なものを見失ってしまうような気がしていた。
そんな時、彼の目の前に一人の女性が現れるのだ。
運命の出会い
その人物こそ「essence kyoto」を共に開くことになる女性、里恵さんだった。
高知県出身で、転勤族の親に連れられ全国を転々とする子供時代を過ごし、大学入学後は、長く東京に暮らしていた。
子供時代から海外への憧れが強かったのだが、大学時代に訪れたヨーロッパで日本文化の素晴らしさに気付き、それをきっかけにお茶の商社に就職。
10年以上も勤務していたのだが、慌ただしい東京での暮らしに疲れを感じ始めていた。
そして、色々と考え抜いた末に、東京を離れることを決める。
選んだ道は、新潟のとある宿で働くことだった。
東京より北に住んだことがなかった彼女は、今のままでは日本の西半分の文化しか知らず、残り半分の文化を知らないことが勿体無いと思ったという。
さらに北国や田舎暮らしを本当に楽しめるかどうかという好奇心もあり、新潟という土地を選んだ。
そんな決意のもと新潟に移り住んだ、2年目のある日のこと。
彼女が働く宿に、啓一さんが訪れたのだ。
それは彼女が働き始めた宿で、偶然にも彼の大学時代の親友が料理長を務めていたからだった。
その親友に会うために日本に帰国する時は、必ずその宿を訪れていた。
何回目かに訪れた時、彼の食事のサービスを里恵さんがすることになる。
その時の出会いが不思議と印象に残ったという。
そして、縁とは不思議なもので、半年を過ぎたある日、彼の親友から社員旅行でタイに行くから現地の友人枠で参加しないかという声を掛けられる。
今度はタイで二人は再会することになるのだ。
その時に連絡先を交換し、メールでのやり取りを始めると、驚くほど価値観が似ていることを知る。
彼が大きな影響を受けた写真家・星野さんやチベット仏教へ導いた中沢新一さんは、彼女も以前から本を読み、興味を持っていた方々だった。
それだけでなく、何を大切にしてるのか、何を求めているのかという感覚がすごく似ていると感じたという。
それは男女を含めて、それまでの人生において自分とここまで似ている人に出会ったことがないほどだったのだ。
器と命
彼女と会話を重ねる中で、自らが失ってしまったものが少しづつ蘇ってゆくような感覚があった。
その時の彼の周りの仲間との会話とは全く異なる内容。
改めて自分は、そういうものから遠ざかっていたことに気付かされた。
一方で彼女は、彼が失いつつある感覚を、自分の中に保ち続けているように感じた。
その時に直感的に、このままタイで送っているような生活を続けていると一生後悔するかもしれないと思ったという。
だからこそ彼女と結婚し、一からやり直したいと考えたという。
そして、その感覚を信じ、里恵さんにプロポーズをし、二人は共に歩んでゆくことになる。
だがなんとその時は、お互いタイと新潟に住んだまま。
遥か海を越え、結ばれた縁だったのだ。
しかし、その時はまだ、特に何を始めるかは決めていなかったという。
ただタイでの暮らしに区切りを付け、自分が見失いつつある本質を取り戻すという漠然とした方向性だけは見えていた。
その上で、これから二人で何をしようかと話をする中で、彼はふと「うつわのお店がしたいな。」と思ったという。
- text / photo HAS / Hiroaki Watanabe
Reference :
-
「チベットの先生」
- 著者:
- 中沢新一
- 出版:
- 角川学芸出版
-
text / photo :HAS ディレクター / デザイナー。 神戸市出身 京都在住。
立命館大学産業社会学部在学中に、インディペンデントの音楽イベントの企画・運営に携わる。
卒業後は環境音楽の制作を開始。その後、独学でウェブ・グラフィックデザインを学び、2019年にHAS創業。
暮らしを灯す物語をテーマに、デザイン、言葉、写真、音楽を重ね合わせながら制作を行う。HAS : www.has-story.jp
-
[ 序章 ]本質を探す旅へ
-
[ 前編 ]心を紐解く旅
-
[ 後編 ]重なり合う出会いと記憶