太陽は西の彼方へと消えようとしている。
過ぎゆく一日を惜しむように、空は茜色に染まりながら、その行く末を見守っている。
鳥たちもその後を追うように空の果てへと飛び立ってゆく。
幾重にも重なる柔らかな色彩が刻一刻と表情を変え、美しい静寂が夜空を満たし始める。
昼でもなく、夜でもない。
あわひが醸し出す美しさに人々は足を止める。
そんな黄昏のひと時に寄り添う、言葉と音楽を集めました。
一日の終わりを告げる時間が、優しい色彩に満たされてゆくことを想って。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
澄み渡る空気と沈黙に包まれた静かな夜のひと時。 この音楽は、そんな静謐な時の中で、まるで水面に一滴の水が落とされるように紡がれたピアノ曲です。
「The Malady of Elegance」と名付けられたアルバムに収録された一曲。 この曲は、アメリカ・ペンシルベニア州出身の音楽家 キース・ケニフによるプロジェクト Goldmundの楽曲として紡がれました。
沈黙に捧げられるように静か紡がれるピアノの響きが静寂の中にある美しさを私たちに教えてくれます。
彼の音楽表現は多岐に渡り、表現するジャンル毎に、Helios/Mint Julep/Keith Kenniffといった多様な名義を使い分け、様々作品を発表し続けている。
Goldmundという名義では、主にピアノを用い、空間を静かに響かせるような美しい音楽を制作している。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
夕影しづかに番の白鷺下り、
槇の葉枯れたる樹下の隠沼にて、
あこがれ歌ふよ。
『その昔、よろこび、そは朝明、光の揺籃に星と眠り、
悲しみ、汝こそとこしへ此処ここに朽ちて、
我が喰み啣める泥土と融とけ沈みぬ。』
愛の羽寄添ひ、青瞳うるむ見れば、
築地の草床、涙を我も垂れつ。
仰げば、夕空さびしき星めざめて、
しぬびの光よ、彩なき夢ゆめの如く、
ほそ糸ほのかに水底に鎖ひける。
哀歓かたみの輪廻は猶も堪へめ、
泥土に似る身ぞ。
ああさは我が隠沼、
かなしみ喰み去る鳥さへえこそ来めや。
啄木は雅号で、本名は石川 一(いしかわ はじめ)。
旧制盛岡中学校中退後、明治35(1902)年与謝野鉄幹の知遇を得て、『明星』に寄稿する浪漫主義詩人として頭角を現す。19歳の時に、処女作となる詩集『あこがれ』を刊行。
同時期に盛岡に帰郷し結婚するも、生活難のため母校の代用教員となる。
明治41(1908)年に上京、創作に没頭し小説を発表するが認められず、困窮の生活を送り、翌年に東京朝日新聞に就職。
明治43(1910)年に『一握の砂』を刊行、歌人としての地位を確立する。
また、同年に起きた幸徳事件(大逆事件)をきっかけに社会主義への関心を深め、文学評論も執筆したが、26歳の時に結核を患い帰らぬ人となる。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
アメリカ合衆国ノースカロライナ州シャーロットを拠点に活動する、シンガーソングライター / エミリー・セージ(Emily Sage)による一曲。
「Lumiére ルミエール」と名付けられた、この曲は、エミリー・セージのアルバム「The Sounds of Serenity Garden」の中に収められています。
「Lumiére」とは、フランス語で光を表す言葉。
そして、アルバム名に付けられた「Serenity Garden セレニティー・ガーデン=穏やかな庭」とは、シャーロットで開催される音楽フェスティバルに合わせ、2023年に都市の中に整備された新たな緑地の名前。
アルバム名の「The Sounds of Serenity Garden」は、そんな都市の中の緑地セレニティー・ガーデンの響きという意味を表しています。
その名前が語りかけるように、このアルバムのコンセプトは、音楽を通じて都会の喧騒の中で自然に出会うということ。
私たちが時間をかけて丁寧に耳を澄ませば、忙しない都会の中でさえも、いたるところに美と芸術があることを感じられるという彼女の想いが込められています。
ささやくように紡がれる彼女の幻想的な歌声は、耳にする人の暮らしの中に、穏やかな自然の光を灯してくれます。
子供時代をポルトガルで過ごし、伝統的なポルトガルの音楽ファドやノラ・ジョーンズ、アンドレア・ボチェッリ、クラシックなどを聴いて育つ。
大学進学に合わせて、アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビルのベルモント大学でソングライティングと音楽ビジネスを学び、その後音楽活動の拠点として、ノースカロライナ州シャーロットに移住する。
ポルトガルの子供時代に育んだ感性を背景に紡がれる、ささやくような幻想的な歌声が印象的なシンガーである。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
カナダ・モントリオールを拠点に活動するフォークシンガー兼プロデューサーのマーカス・ローリー(Marcus Lowry)による一曲。
「Rosie」と名付けられた、この曲は、マーカス・ローリーのデビューアルバムとなる 「Time, Time, Time」の中に収められています。
このアルバムがリリースされたのは、2023年9月。
僅か100部限定の自主リリースのレコードとして発表されました。
9曲の楽曲で構成され、まるで本のページをめくるように、喪失、叶わぬ夢、そして避けられない時の流れを語る、様々な物語が彼の優しい歌にのせて紡がれます。
「Rosie」は、このアルバムのはじまりの一曲。
この歌は、「ロージー」という一人の少女に捧げられた変わらぬ愛の想いが込められています。
それは、移ろいゆく時の流れの中で、決して変わることのない深い愛の物語。
人を愛することの儚さと美しさを教えてくれる一曲です。
今回は、英語の詞を稚拙ではありますが翻訳し、原文と併記するかたちで掲載させて頂きました。
紡がれる音楽だけでなく、その美しい詞の世界にも耳を澄ませながら、聴いてみて下さい。
きっとそれぞれの愛の物語が心の中で流れてゆくと思います。
「ロージー」 - この古い木の枝は、 私たち二人がぶら下がる場所だった そこで私たちは笑い、すべてを手に入れた しかし、ある日、私は見たんだ あの風が幾度も吹いてくることを そして、私は風に運ばれ落ちていった あの高い木の枝から 今、私は下にいるけれど 君が顔を赤らめ、成長するのを見るために、 今もここにいる この歌を歌うことを夢見てきた でも、私はもういない だから鳥たちは歌い続ける 愛しいロージー あなたはいつここに来るの? ロージー 愛しているよ 日は短くなり 夜は長くなる 今、大雨が降っているんだ 鳥はもう私たちの歌を歌わない 草が伸びて以来 草の葉が私を守ってくれる そして今、故郷のように感じる 時は流れ、私は老いてゆく 暗く寒くても 私は祈りながらここにいる いつかあなたが風に運ばれ落ちゆく時 あなたが私の道の上を転がってくれることを 願いながら 愛しいロージー あなたはいつ来るの? ロージー 愛しているよ (『Rosie / Marcus Lowry』より意訳) - 「Rosie」 - On a branch from this old tree A place where we'd hang across We'd laugh and have it all Although one day I did see That winds kept coming round And they made me fall From ten feet tall Now even though I'm down below I'm here to watch you blush and grow I've dreamt of singing you this song But now I'm gone And so the birds have to Keep singing on Rosie my dear When will you be here Rosie you know I love you so Days grow short and nights grow long Now heavy rains are falling Birds no longer sing our song And ever since the grass has grown Leaves have sheltered over me And now it feels like home Time goes by and I grow old And even though it's dark and cold I'll be here while I pray For you to fall one day And on that day I hope that You roll my way Rosie my dear When will you be here Rosie you know I love you so
幼少期から音楽に親しみ、フランスの作曲家ヴァンサン・ダンディの名を冠するカナダ・モントリオールの音楽学校「ヴァンサン・ダンディ音楽院」の初等科のヴァイオリン科を修了した後、10歳でヴァイオリンをギターに持ち替えることを決意。
その後、モントリオール大学でジャズ・パフォーマンスの学士号を取得して以降、様々な国内外のミュージシャンとしての共演しながら、シンガーソングライターとしての自身の音楽を育み続けている。
Mount Eerie マウント・イアリ や Tamas Wells タマズ・ウェルズといった穏やかで美しいフォークソングを歌うミュージシャンとも重なり合うような素晴らしい歌い手である。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
そのむかし、わたしの心にさわいだ野獣の嵐が、
初夏の日にひややかによみがへつてきた。
すべての空想のあたらしい核をもとめようとして南洋のながい髪をたれた女鳥のやうに、いたましいほどに狂ひみだれたそのときの一途の心がいまもまた、このおだやかな遊惰の日に法服をきた昔の知り人のやうにやつてきた。
なんといふあてもない寂しさだらう。
白磁の皿にもられたこのみのやうに人を魅する冷たい哀愁がながれでる。
わたしはまことに美の遊行者であつた。
苗床のなかにめぐむ憂ひの芽、望みの芽、
わたしのゆくみちには常にかなしい雨がふる。
早稲田大学第三高等予科を経て、1907年9月、早稲田大学文学学術院英文科に入学。この頃より詩の発表を始める。
1916年にライオン歯磨本舗に就職。以後、生涯をサラリーマンと詩人の二重生活に捧げた。
生涯に書かれた詩作品は2400近くにのぼる。作品の発表を盛んに行っていたものの、生前に詩集が発刊されることはなかった。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
青々と澄み切った湖面を包むように流れる霧。
この音楽は、そんな霧に包まれた静かな湖面に朧げに射す朝の光のような美しさを湛えた音響作品です。
「Cendre」フランス語で「灰」という意味を持つ名前のアルバムに収録された一曲。
この曲は、オーストリア出身の音楽家 クリスチャン・フェネスと坂本龍一の二人のコラボレーションによって生まれました。
静かに、ささやくように紡がれる美しい響きが澄み切った静謐な時間を私たちの暮らしの中に届けてくれます。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
アメリカ・ポートランド出身の女性アーティスト Grouperと Inca Ore の Splitアルバムからの一曲。それぞれの繊細な歌声がレイヤーのように重なり合い、幽玄な時間を紡ぎ出す美しい一曲です。
空間を満たすサウンドスケープとシンプルなピアノの音色を背景に、ささやくような歌声を重ね合わせ、幻想的な世界観を生み出している。
また音楽のみならず、自らのアルバムジャケットのアートワークも手掛けるなど、音楽とアートの垣根を越えた表現を行う。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
私の室に一冊のよごれたバイブルがある。
椅子につかふ厚織更紗で表紙をつけて背に羊の皮をはつて NEW TESTAMENT. とかいて私はそれを永い間持つてゐる。
十余年間も有つてゐる。
それは私の室の美しい夥しい本の中でも一番古くよごれてゐる。
私は暗黒時代にはこのバイブル一冊しか机の上にもつてゐなかつた。
寒さや飢ゑや病気やと戦ひながら、私の詩が一つとして世に現はれないころに、私はこのバイブルをふところに苦しんだり歩いたりしてゐた。
いまその本をとつてみれば長い讃歎と吐息と自分に対する勝利の思ひ出とに、震ひ上つて激越した喜びをかんじるのであつた。
私はこれからのちもこのバイブルを永く持つて、物悲しく併し楽しげな日暮など声高く朗読したりすることであらう。
ある日には優しい友等とともに自分の過去を悲しげに語り明すことだらう。
どれだけ夥しく此聖書を接吻することだらう。
生後まもなく真言宗高野山派、千日山雨宝院にもらわれ、養父母のもとで育つ。
高等小学校を中退し、12歳で働きはじめた犀星は、文学への思いを募らせて20歳で単身上京、生活苦にあえぐなかで数々の詩を作った。
『愛の詩集』『抒情小曲集』などの抒情詩は大正期の詩壇を牽引し、さらに小説家としても活躍した。
- リンクをコピー
- 記事はこちら
終わりの見えない悲しみ。明けるともしれない夜の闇。
この音楽は、そんな暗闇に満ちた世界の先にある、確かな光を伝えるようなピアノ曲です。
「Between The Lines」というアルバムの中に収められた一曲。
この曲は、ベルギー出身のピアニスト・作曲家であるジャン・フィリップ・コラール・ネヴェンによって紡がれました。
どこか憂いを湛えたピアノのメロディーの中に感じられる希望の光のような美しさ。
それは深い悲しみの先にある、確かな喜びを私たちに教えてくれているのかもしれません。
彼の手掛ける音楽は、クラシック、ジャズ、フレンチ・シャンソン、現代音楽など多岐に渡る。多様な音楽の表現を取り入れながら、ジャンルの枠組みを超えた幅広い活動を行なっている。
- リンクをコピー