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2021.6.15

特集:彼方の詩集
春の詩集 Spring Anthology

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「春の詩集」

作者 : 河井酔茗

あなたの懐中にある
小さな詩集を見せてください
かくさないで――。

それ一冊きりしかない若い時の詩集。
隠かくしてゐるのは、
あなたばかりではないが
をりをりは出して見せた方がよい。

さういふ詩集は
誰だれしも持つてゐます。

をさないでせう、まづいでせう、
感傷的でせう
無分別で、あさはかで、
つきつめてゐるでせう。

けれども歌はないでゐられない
淋しい自分が、なつかしく、かなしく、
人恋しく、うたも、涙も、
一しょに湧き出でた頃の詩集。

さういふ詩集は
誰しも持つてゐます。

たとへ人に見せないまでも
大切にしまっておいて
春が来る毎ごとに
春の心になるやうに
自分の苦しさを思ひ出してみることです。

詩集には
過ぎて行く春の悩みが書いてあるでせう。
ふところ深く秘めて置いて
そつと見る詩集でせう。

併し
季節はまた春になりました。
あなたの古い詩集を見せて下さい。




[ 詩選への想い / 特集 : 彼方の詩集より ]

誰しもが持つ、過ぎ去りし、若き日々のことを想い返す、きっかけとなる詩。
若さは往々にして、苦々しい失敗の日々と共に、あるものだと思います。
しかし、時を重ねてゆく中で、経験がその失敗を埋め、いつしかその時間は、遠い記憶の彼方に消えてゆきます。

いつの間にか、記憶の彼方にこぼれ落ちてしまった、自分自身の弱さ。
完璧とは、ほど遠いほどの未熟な姿。
この詩は、そんな時代を時折、振り返り、慈しむことの大切さを、私たちに教えてくれる気がします。

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